A-Forum e-mail magazine no.65(30-07-2019)

日本の原発事業の行く末は?


東日本大震災後8年半を経た今も、復興に向けて様々な工事が進められている。私の事務所で構造設計を担当していた住宅、生産施設などの復興事業は一段落したしたが、その後も引き続きいくつかの関連公共事業に携わっている。その中に、東日本大震災時の福島県における複合災害の記録を保存し、後世に伝えるアーカイブ施設の建設プロジェクトがある。その工事の着工以来、しばしば工事現場に監理のため出向く機会がある。しかし建設地が帰還困難区域に隣接していため、現地までの交通手段は、JR常磐線の最寄り駅から車で1時間半の道のりを、レンタカーの窓を閉じたまま帰還困難区域を一気に走り抜けるほかに道はない。

その道中、車の窓越しには、かつて水田とおぼしき広大な雑草地と、一階部分が骨組だけを残して津波に流され廃墟となった建物が、いずれも手つかずのまま放置された風景が広がる。一方、行き場のない放射能汚染物(水)が詰まった黒いビニール袋が、ひっそりと野積みにされた廃棄物仮置場が増え続けている。周辺に、人の気配が感じられる場所は、海岸沿いに設けられる防波堤の工事現場や、復興関連道路・施設の建設現場に限られている。

そうした環境の中の建設現場でひたむきに働く人々の間に、数カ月後に竣工するこの施設が、ここを訪れる人々によって賑わう日がくるのか、という不安感が漂う。反面、「それを言ったらおしまい」といった雰囲気もあり、一種独特な空気を引きずりながら、工事工程に従って着々と工事が進められている。「不可逆的」とはこうした状況のことを言うのだろうか。

日頃からしかるべき機関ないしは組織によって決定された事項を途中で考え直し、引き返すことの難しさに直面することは珍しくない。原子力発電もその実用化に一歩踏み出した後、事業推進者はひたすらその安全性を強調し、建設に伴う地元への利益還元も示しながら、不安に駆られる地元住民を説得してきた。およそ30年前に、当時の小学校6年生が考案した「原子力 明るい未来のエネルギー」という標語が、福島第一原発のある双葉町の要所に掲げられたのも、その手段の一つだったと考えられる。当時原発推進に関与していた専門家の間に、ある種の後ろめたさがあったはずのことは想像に難くない。

この原稿を執筆中に、東電が福島第二原発の全4基を約2800億円かけて廃炉することを、今年(2019年)7月末にも正式決定をするという報に接した。その結果、全国で21基の廃炉が決まり、東電の原発は柏崎刈羽原発の7基と、建設中の東通原発(青森県)だけになるという(2019年7月20日 朝日新聞朝刊)。原子炉の耐用年数はほぼ40年、その後の廃炉作業に要する期間は30~40年と聞く。これに原子炉稼働までの時間を加えると、原発事業の採算を左右すると思われる原子炉の耐用年数と全体の時間的、経済的要因とのバランスがとれているのかが疑わしい。そして万一事故が起これば、その地域ばかりか、国自体が存亡の危機に瀕することを福島の事故で知らされた。

近年、世界の原発に対する潮流は撤退の方向にある。このことは官民一体となって海外進出を目指した日本発の原子力発電事業が、次々に挫折した事例を挙げるまでもない。日本がどのような意義と成算のもとに、原子炉の再稼働に向けて日々膨大な費用を投じ、東電が東京から遠く離れた青森県東通村に新たな原子炉を建設しようとしているのかが、私達国民にはよく分らない。

冒頭に紹介したアーカイブ施設が、日本の原発の行く末を考え、議論する上で、一定の役割を果たせることを願いながら工事の進捗を見守っている。

(K.K)


第29回AF-Forum

「地球温暖化により激しくなる豪雨と都市計画・土木・建築」

コーディネーター:和田章
パネリスト:浅岡 顕(名古屋大学名誉教授)、田村和夫(元千葉工業大学教授)

日時:2019年8月21日(水)17:30~
場所:A-Forum
参加費:2000円(懇親会、資料代)
参加申し込み:こちらのフォーム よりお申し込みください。
*「お問い合わせ内容」に必ず「第29AFフォーラム参加希望」と明記ください。


18世紀後半にイギリスで始まった産業革命は人々の生活と社会の活動を大きく変え、夢を実現してきました。しかし200年が過ぎた頃から、同じようには進められないことを賢者が指摘し始めました。具体的には、1972年の「成長の限界」、1992年の「環境と開発に関するリオ宣言」、2015年の「パリ協定」など、わがままな人間活動が地球や人々に悪い影響をもたらすことを指摘しています。

今年は7月に入っても涼しい日が続き安心していましたが、7月21日には西日本に豪雨があり不安です。昨年の夏は大変な猛暑と水害に見舞われ、ほとんどの日本人が地球温暖化を実感し、気象の研究者も偏西風の流れ、海水の温度上昇などを含めて、気象が荒くなるのは当然だと指摘しています。

東日本大震災の大津波の惨状に限らず、昨年の西日本豪雨などの豪雨災害を見て、これらの災害を減じるためには、国土計画、都市計画から見直さねばならないこと、防潮堤、土盛り、堤防の建設が終わって白地図ができてから、まち作りや建築を考える方法ではなく、その地の人口、暮らし方を含めて、都市計画・土木工事・建築を総合的に考えるべきと考えます。

このテーマは一度の議論で解決できるほど容易ではありませんが、このたびのフォーラムでは、名古屋大学の名誉教授:浅岡顕先生に土木工学の立場から30分、元千葉工業大学教授:田村和夫先生に建築の立場から30分の問題提起をしていただき、その後1時間ほど、議論を深めたいと思います。

1)「豪雨と地震に対する、大都市に共通の脆弱性」浅岡 顕(名古屋大学名誉教授)

2)「気象現象が激化する時代における地域・建築の洪水リスクと備えを考える」田村和夫(元千葉工業大学教授)

日常的なお仕事は、建築設計・構造設計をされている方が多いと思いますが、都市計画の問題、土木工事の問題、建築工事の問題を一緒に考える機会にしたいと思います。多くの方々のご参集を期待いたします。

和田 章

   参考資料:   NHK World「水害編 ~日本とインドを歩く~」   


第17回 AB(アーキテクト/ビルダー「建築の設計と生産」)研究会
詳細未定


コーディネーター:布野修司+安藤正雄+斎藤公男

日時:2019年9月21日(土)15:00〜18:30(予定)
場所:A-Forum
参加費:2500円(懇親会、資料代)
参加申し込み:こちらのフォーム よりお申し込みください。
*「お問い合わせ内容」に必ず「第17回AB研究会参加希望」とご明記ください。

詳細決まり次第お知らせします


構造展
ー構造家のデザインと思考ー

会期
2019年7月20日(土)~10月14日(月・祝)

会場
建築倉庫ミュージアム 展示室A 〒140-0002 東京都品川区東品川 2-6-10)

開館時間
火〜日 11 時〜19 時(最終入館 18 時)
月曜休館(祝日の場合、翌火曜休館)

入場料
一般 3,000円、 大学生/専門学校生2,000円、 高校生以下1,000円
(展示室Bの企画展示「Wandering Wonder-ここが学ぶ場-」の観覧料含む。)
*障害者手帳をお持ちの方とその付添者1名は無料。ご入館の際、障害者手帳等をご掲示ください。
*学生の方は、ご入館の際、学生証を拝見しております。忘れずにご持参ください。

【企画概要】
 日本の有名建築には必ず「建築家」と「構造家」の協働(構造家の存在)があることをご存知でしょうか。構造家は、建築家のイメージする空間を実現すべく、建築家との対話を繰り返しながら構造システムを検討し、意匠・計画・設備・施工の各種与件に対して、技術を応用し、思想を持って構造をデザインします。
 本展覧会では、上述を含む50名に及ぶ構造家の思考とデザインに焦点をあて、60作品70点以上の「構造システム」「構造デザイン」にまつわる模型や図面、そのプロセスや思考が分かるスケッチや映像などを展示いたします。1950年代から現代まで、日本の構造家が築いてきた多様な美学や感性を、会場全体を通じて体感することができます。

企画・主催: 寺田倉庫 建築倉庫ミュージアム

特別協力: 斎藤 公男

協力: 犬飼 基史/ 津賀 洋輔/ 瀬尾 憲司/ 犬飼 としみ/ 吹野 晃平/ 川口 貴仁/ 石田 雄太郎

詳細はこちら
和田章追悼・川口衛先生/常に新しい技術開発に挑戦/世界の構造設計を率いた巨星 建設通信新聞 2019/07/24
神田 順 まちの中の建築スケッチ 第21回「世界貿易センタービル ——東京の超高層の風景——」住まいマガジンびお
★夏季休館のおしらせ★
2019年8月10日(土)~18日(日)まで夏季休館となります。