第32回 AF-Forum
世界遺産への道 ―レガシーとしての「代々木」を考える―


コーディネーター:斎藤公男
プレゼンテーション:
1) 山名善之(東京理科大学教授/美術史家)「世界遺産とは何か―その意義と現状」
2) 豊川斎赫(千葉工業大学准教授/建築史家)「「代々木」の世界遺産登録の課題」
3) 村田龍馬(村田龍馬設計所主催/構造家)「代々木」の耐震改修計画」

日時:2020年4月20日(月)18:00~

新型コロナウイルス感染症の影響により、開催延期が決定いたしましたのでお知らせいたします。
代替日時につきましては、決まり次第お知らせいたします。


場所:A-Forum
参加費:2000円(懇親会、資料代)、学生1000円
参加申し込み:こちらのフォーム よりお申し込みください。
*「お問い合わせ内容」に必ず「第32回AF-Forum」とご明記ください。

いよいよ東京2020オリンピック開催の足音が高まっている一方でさまざまな状況が日々変化する不安と緊張が交錯する日々が続いている。大会の成功に向けて整備・建設された五輪施設も厳しい工期をのりこえて、無事、完成を迎えることができた。国立代々木競技場(「代々木」)もその一つである。

「代々木」は前回の東京オリンピック(1964)の主役であった。戦後約20年後の日本の復興の姿を示すだけでなく、「日本の建築」の技術とデザインの革新的な融合が世界的に評価された訳である。一時は解体されるのではないか、という危機的状況をのりこえ、今回の耐震大改修となった。レガシーとしての「代々木」をさらに世界遺産登録へ、という期待が高まっている昨今、この動きを何としても高めたいものと誰もが痛感していよう。

いうまでもなく世界遺産(World Heritage)とは、1972年にユネスコ総会で採択された国際条約に規定された世界遺産リストに記載される文化と自然あるいはその複合遺産のことをいう。審査にあたって建築等が含まれる文化遺産は助言機関であるICOMOS(国際記念物遺跡会議)が事前調査を行い委員会に意見を出す。文化遺産の様々なカテゴリーの内で、「20世紀遺産」と呼ばれる領域だけは19世紀から現代を対象とした時間軸を設定し議論が進められるようである1)。また1988年にオランダで結成された国際NGOであるDOCOMOMOは、20世紀遺産の中でも特に近代運動、いわゆる「モダニズム建築」に関わる建築遺産の保存をその活動の中心においている。

こうした近過去の遺産をどう評価するかは今日の社会状況と深く関わってくるだけに中々難しい課題であろう。たとえば“作品”と建築家・設計者の関係はどう問われるか。非西欧圏に対する視点が欠如していないか。建築後何年経っていることが必要なのか。そうした多くの議論が交わされているようである。

日本の文化財保護法においては、登録文化財は50年以上を経過したものと明記されており、当然、その上の国宝、重要文化財は50年以上が運用の前提となり、世界遺産登録への足がかりもそこが問われることになる。一方、シドニー・オペラハウス(1973)の世界遺産登録は完成後34年(2007年)であり、今年で56年目を迎える「代々木」(1964)は決して時期尚早とは言えない。今、「シドニー」と「代々木」を対比することは極めて興味深い。

20世紀遺産と考えられリストに登録されたものは、例えばA.ガウディの作品群(1984)、L.コスタ・O.ニーマイヤーのブラジリア(1987)、L.コルビュジエの作品群(2016/7か国・17作品)、F.L.ライトの作品群(2019/8作品)などがある。ほかにもA.アールトやM.V.ローエ、L.バラガンといった巨匠達の作品も申請されたが登録には至らなかったようである。

果たして20世紀遺産は世界遺産としてどう評価されるのか。稲葉信子は世界遺産に求められるのは普遍的価値と物語性であるとし、2つの会議の様子を紹介している2)。ひとつは1994年の専門会議であり次のような憂慮を議事録に記している。「たとえば、20世紀建築は偉大な建築家や美学の観点からのみ考えるべきことではなく、材料の使用、技術、仕事、空間組織、または広範に社会生活における多様な意味の明らかな変化として考慮すべきである。(以下略)」と。
いまひとつは1988年のアムステルダムで開催された専門会議の声明。すなわち「文化・自然遺産を特徴づける顕著な普遍的価値の要件は、人類のあらゆる文化に共通し対処される普遍的性質の諸問題に傑出した対応と解釈されるべきである」と。

ところで筆者が大学に入学した1957年(昭和32年)、建築会を醒覚させる2つの出来事があった。L.コスタによる「ブラジリア」とJ.ウッソンによる「シドニー・オペラハウス」が共に国際コンペに勝利したのである。そして両者は各々36年後、50年後に共に世界遺産に登録されたのである。筆者が初めて両者を訪れたのは1972年であったが、完成を半年後に控えた「シドニー」の思い出は特に感慨深い。竣工式を欠席したというウッソンの苦悩や挫折、アラップの16年の苦闘、そして当局と関係を回復した建築家が登録直後に逝去(2018)したことなどが胸を打つ。

幸運にも筆者は、院生時代に坪井善勝研究室の一員として「代々木」のプロジェクトに参加することが出来た。当時やっと軌道にのりかけた「シドニー」の大版の青図を囲んでの議論も鮮明に思い出される。

いまあらためて思う。「シドニー」は一体どのような評価を得たのか。そして「代々木」が世界遺産として問われる「普遍性」や「物語」は何であろうかと。遺産登録への理解と支援の高まりを期待したい。

参考文献:
1) 山名善之「世界遺産―ル・コルビュジエ作品群」(2018.TOTO出版)
2) 稲葉信子「世界遺産と近代」(2019.A+U)