第28回AF-Forum

「モダニズムの軌跡(1964-2020)」
        ―建築(家)と構造(家)の融合をめぐって


コーディネーター:斎藤公男
パネリスト:堀越英嗣(建築家、芝浦工業大学教授)、磯達雄(エディター/ライター、㈱フリックスタジオ)、小西泰孝(構造家、武蔵野美術大学教授)

日時:2019年6月11日(火)17:30~
場所:A-Forum
参加費:2000円(懇親会、資料代)


新緑の候、いよいよ「令和」となりました。

平成の30年間を検証・総括する試みのいくつかが建築や構造の分野でもみられます。1)2) 今回のフォーラムの企画を考えるうえでも、最近私自身が体験した回顧的な話題や出来事が示唆を与えてくれました。

1つ目は、日経アーキテクチャー2019.2月号に掲載された2つの記事です。ひとつは特集「検証 平成建築史」のなかで取り上げられ、“集大成としての世界初の挫折”とされたZaha Hadidの「新国立競技場」。いまひとつは恒例のシリーズ「建築巡礼―昭和モダン」(宮沢洋・磯達也)でとりあげられた「岩手県立体育館」。冒頭の“健全なる意匠と構造”のフレーズには感激しました。おそらく偶然の企画と思いますが、私が少なからず関わり、しかも“キールアーチとケーブルネット”の構造形式を共有する2つのプロジェクトが長い年月を経て同じ紙面に奇しくもとりあげられたことは驚きでした。

2つ目はDOCOMOMOの法人化設立総会(3/16)において依頼された記念講演会。会長は松隈洋氏から渡邉耕司氏になり、来秋、東京で国際会議を主催するということです。同会とは私は建築学会会長の頃(‛07~‛08)、郵政ビルや歌舞伎座などへの保存要望書の提示をめぐって議論した記憶がありますが、あまり深い関わりを持っていたわけではありません。私なりの興味から選んだ演題は「私にとってのモダニズム―空間構造デザインをめぐって」。<br> これを契機に以前から気になっていた「モダニズムはいま―」といったテーマへの関心は増々深まっています。「漂うモダニズム」3)の先も気になります。

3つ目はNHKの首都圏ニュースで取材・放映(4/23)された「二つのオリンピックスタジアム―「代々木」から「有明」」です。前回(1964)と今回(2020)の東京五輪施設の計画・設計に何らかの形で関わったエンジニアという目線からの企画とのこと。今回の「有明体操競技場」はアドバイザーとして深く関わりました。前回の「国立代々木競技場」では坪井研の大学院時代、幸運にもプロジェクトの最初から設計プロセスを垣間みることができた訳です。坪井・川口両先生のお名前は絶対出して下さい、と頼みましたが、cutされていました。メディアはこわいな、とあらためて思う次第です。

ということで、あらためて「代々木」「岩手」「Z・H新国立」「有明」の名を並べてみると互いに相関し合うさまざまなEpisodeが思い浮かんできます。そしてそれらをつなぐものとして二つのテーマを考えてみました。

第一は「モダニズムの軌跡」です。モダニズムの定義や意義はともかくとして、「代々木」から「Z・H新国立」に至るモダニズムの変遷。昭和モダンがあるならば平成モダンは?かつて「代々木」に冠せられた“構造表現主義”なる言葉4)は一体何か?といった疑問です。IT時代の今日、“オルタネイティブ・モダン”5)“構造のポストモダニズム”6)といった言説も気になります。

第二は「建築・意匠と構造・技術の融合」です。この分野横断的な理念はアーキニアリング・デザイン(AND)のそれと同じで、イメージ(想像力)とテクノロジー(実現力)の相対的ベクトルの有様は歴史的にも、今日のプロジェクトを通じても散見され、両者の交差点におけるさまざまな物語が展開されています。こうした視点から「代々木」と「Z・H新国立」の設計プロセス、とりわけ基本構想(計画)における状況を回顧・考察することは興味深く思われます。構造デザインにおけるITの活用と知力(アイデア)の注入といった視点を通じて、今日の新しい、建築(家)と構造(家)の融合の実態、個性的創造と普遍的創造7)といった具体例が見えてくるはずです。

かつての「建築文化」特集号―1961年の「構造設計の道」に続く1990年の「建築の構造デザイン」。その中での座談会8)での話題と課題は30年経た今日でも風化していません。特集の第三段が期待されます。

以上述べたような事柄や疑問を背景にして、今回のAF-フォーラムを下記のように企画しました。各パネリストに20-30分自由な内容(企画文のキーワードを中心に)でプレゼンして頂き、その後討論を行いたいと思います。皆様のご参加をお待ちしています。

[参考文献]
1)「建築技術が拓いた建築と空間」(鉄構技術2018.9)
2) 「検証 平成建築史(1989-2019)―内藤廣が語る未来への提言」(日経アーキテクチャー2019.4)
3) 槇文彦「漂うモダニズム」(左右社2013)
4)矢代眞己, 田所辰之助, 濱嵜良実「マトリクスで読む20世紀の空間デザイン」(彰国社 2003)
5)五十嵐太郎「モダニズム崩壊後の建築」(青土社 2018)
6)内藤廣「構造デザイン講義」(王国社2008)
7)山本学治「現代建築と技術」(彰国社1963)
8)木村俊彦・川口衛・磯崎新・原広司・斎藤公男(司会)「構造学と建築学のはざまに(座談会)」(建築文化1990.11)